(学習の目的)
生産費に注目し、自由貿易がおこる理由を分析します。本来は「一般均衡分析」を用いて説明するべきですが、やや難しいので、まずは「何を説明しているのか」についてイメージをつかんでください。
絶対優位の考え方
「それぞれが得意なものを生産する」イメージです。
- 「貿易」の一般的なイメージとしては、当事者同士がそれぞれ「得意なものを生産して、それをお互いに交換し合う」というものがあります。
- 例として、「A国」と「B国」の2つの国が、「X財」と「Y財」という2つの財を生産する「2国2財」モデルをみていきます。
(仮定)
- 「A国」は、「X財」を低コストで生産できるとします。
- 「B国」は、「Y財」を低コストで生産できるとします。
- この場合、「A国」は「X財」の生産に、そして「B国」は「Y財」の生産に「資本」と「労働」を集中すること(特化)によって、効率的な生産をおこなうことができます。
- そして、「A国」は「X財」を「B国」に輸出し、「B国」は「Y財」を「A国」に輸出すれば、「資源は効率的に配分」されることになります。
- このような考え方を「絶対優位」(absolute advantage)といいます。
「絶対」と「相対」の違い
- 「絶対」ということば(absolute)は、「相対」ということば(comparative / relative)と対(つい)になっています。
- 「相対」とは「相手」と比べることで、「絶対」とは「相手がいない(絶えている)」という意味です。
- ここでいう「絶対優位」とは、「ある財の生産について絶対的に優位にたっている」状態です。
- つまり、「A国はX財の生産コストが低いこと」や「B国はY財の生産コストが低いこと」が、「生産コスト」を見ただけで一発でわかるような状態です。
- これに対して、次にみる「比較優位」(comparative advantage)とは、「生産コスト」について「相対的」に比較する方法です。
比較優位とは生産費の差
かんたんにいうと、「比較優位」とは、「やや得意なこと」と「ものすごく得意なこと」の違いのことです。
- さきほどの「2国2財」モデルをみていきます。
- 「A国」は、「何でも得意」で、「X財」も「Y財」も低コストで生産できるとします。
- 「B国」は、「何でも不得意」で、「X財」も「Y財」も高コストでしか生産できない状態だとします。
- 一般的なイメージでは、貿易がおこなわれるとは考えられませんが、実は「ある条件」があれば、このような場合でも、貿易がおこなわれます。
- その条件とは、「生産費の差」がある状態です。
比較優位の考え方
「不得意でも生産できるものがある」というイメージです。
- 「生産費の差」がある状態とは、たとえばこのような状態です。
- 「A国」は、「何でも得意」。ただし、「X財」を作るのは「やや得意」、「Y財」は「ものすごく得意」。
- 「B国」は、「何でも不得意」。ただし、「X財」をつくるのは「やや不得意」、「Y財」は「ものすごく不得意」。
(比較のしかた)
- 「A国」は、「何でも得意」ですが、この「得意さ」は「Y財」のほうが目立ちます。よって、「A国」は「Y財」の生産に集中したほうが効率的です。
- 「B国」は、「何でも不得意」ですが、この「不得意さ」は「X財」のほうがまだマシです。よって、「B国」は「ものすごく不得意」な「Y財」の生産はやめて、まだマシな「X財」の生産に集中したほうが効率的です。
(貿易をおこなう)
- そして、「A国」は「Y財」を「B国」に輸出し、「B国」は「X財」を「A国」に輸出すれば、「資源は効率的に配分」されることになります。
- このような考え方を「比較優位」といいます。
比較生産費説
「比較生産費説」は「リカード」が提唱した理論です。この理論では、「自由貿易」がおこる理由を分析しております。
- 各国は「相対的に生産費の低い」財の生産に「特化」します。
- このような財を、「比較優位をもつ財」ともいいます。
- そして、お互いにこの「比較優位をもつ財を」自由に貿易することによって、双方ともに「貿易の利益」を得ることができることになるのです。
ヘクシャー=オリーンの定理
「どのような財に比較優位をもつか」については、いくつかの考え方があります。ここでは代表的なものとして「ヘクシャー=オリーンの定理」をみていきましょう。
- この考え方では、各国に存在する「生産要素の量」に注目します。
- つまり、「資本」と「労働」のどちらが「相対的」に多く存在するかを比較します。
- あくまでも、「相対的」という点が重要です。
- つまり、「資本」も「労働」も、ともに乏しい国であっても、「相対的」にみればどちらかが豊富に存在することになります。
- そしてこの「相対的に豊富に存在する生産要素」を重点的に用いて生産活動をおこなえばいいのです。
- 重点的に用いることを「集約的に用いる」と表現します。
まとめると、「ヘクシャー=オリーンの定理」とは、「各国は自国に相対的に豊富に存在する生産要素を集約的に用いて生産した財に比較優位をもつ」という考え方です。
このテーマは、表を用いた数値例やグラフを用いて理解することが大切です。ただ、はじめのうちはなかなか理解するのはむずかしいと思いますので、まずは「相対的(比較的)」と「絶対的」ということばの意味を感覚的につかんでみてください。
→次は「貿易政策」です。余剰分析をもちいて自由貿易や関税の影響を分析します。