2-2-2.貨幣需要(古典派)

(学習の目的)
古典派の貨幣需要に対する考え方である「貨幣数量説」をまなびます。
(→ ケインズ派の貨幣需要はこちら


古典派の貨幣需要

  • 古典派は、貨幣需要の動機として、「取引動機」と「予備的動機」を考えます。
  • ケインズ派と異なり、「投機的動機」は考慮に入れません。

古典派の「貨幣数量説」

  • 古典派は「貨幣数量説」にもとづいた貨幣需要関数を想定します。
  • この考え方によれば、貨幣数量の変化は、国民所得の大きさに影響を与えず、物価水準を比例的に変化させるだけです。

この考え方では、貨幣はあくまでも取引の仲立ちをするに過ぎず、国民所得や雇用水準に影響を与えません。

  • 味方にも敵にもならないことから、「貨幣の中立性」ともよばれます。
  • ただ、物価の変動は人々の生活に影響を与えますので、これを調整するために貨幣の流通量を管理することは意味があると考えます。

2つの式

古典派の貨幣数量説について入門レベルでは、「貨幣量」(マネー・サプライ)と「物価」の関係をあらわした次の2つの式を理解しておいてください。

  • 「フィッシャーの交換方程式」
  • 「ケンブリッジの現金残高方程式」

フィッシャーの交換方程式の考え方

フィッシャーの交換方程式では、取引に必要な貨幣の量を表現しております。

  • たとえばある国のGDPが100兆円だとします。
  • 取引には貨幣が必要です。
  • でも、貨幣を100兆円分発行する必要はありません。
  • たとえば10兆円分発行して、それが10回取引で使われれば、10兆円×10回=100兆円となって十分となります。
  • お金が世の中をぐるぐる出回っている様子をイメージしてください。
  • これがフィッシャーの交換方程式の基本的な考え方です。

フィッシャーの交換方程式

フィッシャーの交換方程式は次の形で表されます。

MV = PT

  • 「M」は「マネー・サプライ」つまり発行された貨幣の量です。
  • 「V」は「貨幣の流通速度(velocity)」です。「お金が世の中を何回ぐるぐる回ったか」を表しています。
  • 「P」は「物価水準(prices)」です。
  • 「T」は「取引量(trade)」です。
  • この2つをかけあわせた「PT」は全体の取引額つまり「国民所得」(GDP)です。

この式では、「全体の取引(PT)」のために、発行された「貨幣(M)」が「ぐるぐる回って(V)」、必要な貨幣をみたすことをイメージしてみてください。

貨幣数量説の意味

  • ここで、「貨幣の流通速度」(V)と「取引量」(T)は一定であると仮定します。
  • すると、政府が「マネー・サプライ」(M)を増加させると、比例的に「物価水準」(P)が上昇することが表現できます。

マネー・サプライを変化させる政策を「金融政策」といいます。この「貨幣数量説」によれば、景気を良くするためにマネー・サプライを増加させても、物価が上がるだけで意味がないということになります。


ケンブリッジの現金残高方程式の考え方

  • 「貨幣量」(マネー・サプライ)と「物価」の関係をあらわしたものには、もうひとつ「ケンブリッジの現金残高方程式」があります。
  • この方程式は、「国民所得(GDP)に一定の値をかけたものがマネー・サプライになる」ことをあらわしています。

ケンブリッジの現金残高方程式

ケンブリッジの現金残高方程式は次の形で表されます。

M = kPY

  • 右辺からみていきます。
  • 「Y」は「(実質)国民所得」です。
  • 「P」は「物価水準」です。
  • この2つをかけあわせた「PY」は「(名目)国民所得」になります。
  • 「実質」と「名目」の区別は重要なのですが、ここではまず「PY」の部分が「国民所得」(GDP)をあらわしていることを理解してください。
  • 左辺の「M」は「マネー・サプライ」つまり発行される貨幣の量です。
  • この方程式では、「k」がポイントとなります。これは「マーシャルのk」とよばれる「定数」です。

よって、ケンブリッジの現金残高方程式「M=kPY」では、「マネー・サプライ」(M)は、「(名目)国民所得(GDP)」(PY)に一定の値(k)をかけたものとしてあらわされることになります。


2つの式の関係

「フィッシャーの交換方程式」と「ケンブリッジの現金残高方程式」の関係をみていきましょう。入門レベルでは、「フィッシャーの交換方程式」を変形すると「ケンブリッジの現金残高方程式」になることを確認しておいてください。

(式の変形プロセス)

「フィッシャーの交換方程式」
MV = PT
まず、この式の「取引量」(T)を「(実質)国民所得」(Y)と置き換えます。
MV = PY
両辺を「V」(貨幣の流通速度)で割ります。
M = 1/V・PY
ここで「1/V」を「k」(マーシャルのk)と置きかえると、
「ケンブリッジの現金残高方程式」
M = kPY
になります。

ここでは、「マーシャルのk」は「貨幣の流通速度」(V)の「逆数」になることを確認しておいてください。


古典派の貨幣需要:国民所得の増加関数

「ケンブリッジの現金残高方程式」
M = kPY
の両辺を「P」(物価水準)で割ると次の形になります。
M/P =kY

  • 左辺は、「マネー・サプライ(M)÷物価水準(P)」です。
  • これは、物価を考慮に入れたマネー・サプライ、つまり「実質マネー・サプライ」をあらわしております。
  • 右辺では「国民所得」に定数「k」をかけています。

これは、貨幣需要が「国民所得に比例する」こと、つまり「国民所得の増加関数」であることをあらわします。


→ ケインズ派の貨幣需要
→ 貨幣供給