前節<(学習の目的)
取引を行う人々の間で情報格差がある場合、人々が自分の利益を追求することによって、市場全体にとってはのぞましくないことがおこります。これが情報の非対称性の問題です。
情報の非対称性
売買をおこなう経済主体の間で、財の「品質」に対する「情報」量に格差があることを「情報の非対称性」といいます。この場合、次の2つの問題が発生します。
- 逆選択(アドバース・セレクション)
- 道徳的危険(モラル・ハザード)
①逆選択(アドバース・セレクション)
「品質の良い財」が市場から排除され、「品質の悪い財」が市場で選択されるようになるケースを「逆選択」(アドバース・セレクション)といいます。
- 例としてあげられるのが「中古車」の市場です。
- 中古車の品質に関する情報は売り手のほうが買い手よりも多くもっていると考えられます。
- 売り手は、品質の良い車を手元に残し、そうでない車を先に売ってしまおうとするでしょう。
- 結果的に市場には品質の悪い車ばかりが出回ることになります。
- 問題点のある中古車を米国の俗語で「レモン」ということから、「レモンの原理」ともいわれます。
- また、「悪貨は良貨を駆逐する」という「グレシャムの法則」も、この「逆選択」のことを示します。
逆選択の解決方法
この「逆選択」を解決する方法として、供給側が品質について「情報を発信」する「シグナリング」(シグナル)があります。
- 例としては、労働市場にける資格や学歴があげられます。
- これらは、労働の供給側である労働者が自らの能力や可能性をアピールするものとしてつかわれることがあります。
②道徳的危険(モラル・ハザード)
「逆選択」の他に、「情報の非対称性」には「道徳的危険」(モラル・ハザード)があります。
- あるサービスを需要する人を「依頼者」(プリンシパル)といいます。
- このサービスを供給する人を「代理人」(エージェント)といいます。
- サービスとは、対価を支払うことによって、自分ではできないことを他人に代わりにやってもらうことです。
- このサービスに対する情報は、「依頼人」よりも「代理人」のほうが多くもっていると考えられます。
- 一般的に「依頼人」は「代理人」がサービスを適切に供給しているかどうかについて、その行動を正確に把握することは困難です。
このような状況において、「依頼人」が「代理人」から経済的な不利益をこうむることを「道徳的危険」(モラル・ハザード)といいます。
道徳的危険の解決方法
「道徳的危険」を解決する方法として、「代理人」に「インセンティブ」(誘因)を与える契約をおこなうことがあります。
- 例としては、営業(セールス)の「歩合給」があげられます。
- セールス・パーソンが仕事として営業活動をきちんとやっているかどうか、雇用者側はその情報を正確に把握することは困難です。
- 人によっては仕事をサボって給料だけを得ようとするかもしれません。
- これを防ぐために、セールス・パーソン側に「インセンティブ」(誘因:ようは「やる気」)を与えるために、顧客と結んだ契約に応じて「歩合給」を支払うことがあげられます。
「6.市場の失敗」はここまでです。
→ 次の章「7.ゲーム理論」では、行動の意思決定プロセスについて分析します。
→ はじめの節「7-1.ナッシュ均衡」
← 前節「不確実性」