(2)マネージメント視点での経済学

次に、マネージメントの視点で経済学をみてみましょう。この視点で一番気になるのは「儲かるかどうか」だと思います。これは景気の良し悪しの影響をうけます。よって経済を全体的にみるマクロ経済学の理解が重要になります。ただ、景気が良かろうが悪かろうが、「自分(たち)が儲かるかどうか」を考える場合は、もっと個別的な存在として、消費者や企業の行動をみたほうが参考になるでしょう。これはミクロ経済学の対象です。

ミクロ経済学の対象は3つにわけることができます。

①消費者行動

いわゆる「ニーズをつかむ」という言葉の背景にある意味がこれにあたります。人々の好みにあたるのが「効用」です。要は欲望のことです。これは無限です。これに対して、実際に使える予算には限り(制約)があります。そして、欲しい商品には「価格」という情報がくっついています。自分の欲望、手持ちの予算、そして欲しい商品の価格、これらの情報を比較して、「一定の予算の制約のもとで、効用を最大にするような消費量(購入量)を決めること」、これが消費者の行動になります。

ところで、ここで価格が変化したらどうなるでしょうか。この場合、新しい価格のもとで、自分の効用を最大にするような消費量が決まることでしょう。これらの価格と消費量の組合せをグラフにあらわしたものが「需要曲線」です。一般的に需要曲線は右下がりです。消費者行動分析では、なぜそのような形になるのかを分析していきます。

②生産者行動

消費者にたいして働きかけをおこなうのが、生産者である企業です。企業の行動目標は、与えられた条件のもとで利潤を最大にすることです。この場合、コストつまり費用が重要な情報になります。ある価格のもとで利潤が最大となるような生産量をしめしたものが「供給曲線」になります。これについて正確に定義するとかなりややこしくなりますので、いまは「生産者行動の分析では供給曲線を描く」とおぼえておけば十分です。

マネージメントの視点としてはむしろ「生産要素」について知っておいたほうがいいでしょう。これは生産に必要なもののことです。3つにわけることができます。

まず生産にあたっては、元手としての「資本」が必要です。これをもちいて原材料や道具などを手にいれます。そして、これらの元手に「労働」をくわえて、あらたな付加価値をつくりあげることが生産活動です。ミクロ経済学の基礎では、この資本と労働の2つだけを知っておけば十分ですが、実際にはもうひとつ「土地」という生産要素が重要になってきます。土地が資本や労働と大きく異なる点は、「移動させることができない」ということです。たとえば農業などでは、土地の生産性の違いによって、同じ資本と労働であっても生産量が異なってくるということはよくあります。ここまで分析すると大変ややこしくなるので、ミクロ経済学の基礎レベルでは、土地の生産性は一定と仮定して考えます。

③市場と政府の関係

消費者と生産者が実際に商品のやりとりをするのが「市場」です。需要と供給が一致して、取引数量や価格が決定します。この場合の価格を均衡価格(市場価格)といいます。

ここであつかう「市場」とは抽象的な概念です。まずは仮定として「完全競争」市場を分析します。自分と相手が何かをやりとりしている場合を考えてみてください。このとき、自分たち以外にも同じようなやりとりをしている人々が無数に存在していて、ある人1人の行動がまわりに何の影響も与えないような状態、これが完全競争市場です。この場合、人々は市場で決まった価格を受けいれるしかありません(プライス・テーカー)。

この完全競争市場とは反対に、ある少数の人々の行動が、取引量や価格に影響を与える場合が「不完全競争」市場です。売り手や買い手が1人の場合を「独占」といいます。

マネージメントする個人として「うまみ」があるのは、言うまでもなく独占つまり不完全競争市場のほうです。この「うまみ」の源泉は、価格を支配する力を持っていることです(プライス・メーカー)。たとえば生産者側が価格支配力をもっている場合、その商品は「自分たちしか生産できない」ものといえます。このような状態を、財が「差別化」されていると状態いいます。

自分がその立場になれるとしたら、それは不完全競争市場で価格支配力をもつ立場のほうがいいでしょう。しかし、社会全体からみてどちらがのぞましいかといえば、これは完全競争市場のほうです。不完全競争の場合はどうしても価格が高くなってしまいますので、取引量は少なくなります。これが完全競争市場ならば、もっと安い価格で、もっと多くの人にいきわたって、資本や労働などの生産要素つまり「資源」が、もっとうまく利用されることになります。

ここで、社会全体の福利厚生を考える「政府」の役割がクローズアップされてくるのです。ここにあげた不完全競争のほかにも、いくつかの問題がでてきます。たとえば個々の企業が自分たちの儲けだけを第一に考えて活動した場合、公害などが発生することもあります。このような問題を「市場の失敗」といいます。この市場の失敗に対応するためにも政府の役割が重要になってきます。この市場と政府の関係は経済学の議論では、非常に重要なテーマです。

④経営学との関係

ここまで説明してきたように、経済学はたとえミクロ経済学であっても、社会全体を考えることが前提となっております。議論を簡単にするために、本来ならばありえないような数々の仮定をしております。たとえば次の通りです。

  1. 消費者も生産者も無数に存在する。 → そうだったら苦労しない。
  2. 市場への参入・退出は自由にできる。→ そうだったら苦労しない。
  3. 取引される商品の品質に差は無い。 → そうだったら管理で苦労しない。
  4. 商品情報は売り手も買い手も完全。 → そうだったら宣伝・広報で苦労しない。
  5. 単純化のために時間の概念は無い。 → そうだったら納期で苦労しない。
  6. 単純化のために空間の概念は無い。 → そうだったら通勤・輸送費で苦労しない。
  7. 単純化のために人間の差は無い。  → わけのわからないことは言わないでほしい。

経済学を学んでいて、「なんかヘンだな」と思うことがあった場合は、それだけ現実的なマネージメントの視点が身についている証拠といえるかもしれません。

→ (3)学習の動機付け